新橋・濱壹 650キロ離れた地で、今日も兄弟は腕を振るう。

03/10/2008東京,新橋/汐留,よるどき

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「最寄り駅は御成門。」
そう聞かされたので、青森で履くトレッキングブーツを買った足で、銀座から会食の場に向かうものの、土地勘が薄れている自分に気がつく。
そんな自分がタクシーに乗ってたどり着いたのは、路地裏の目立たないところにあった一軒のお店。
これで「はまいち」と読む。以前阪神にいた藪恵壹と同じ字を使っているが、藪と同じ三重県ではなく、愛媛県出身の兄弟が腕を振るうお店だ。
どうやら、このお店にフードメニューはなく、基本はおまかせのみ。一方、ドリンクメニューを眺めると、鹿児島の焼酎が多い中で、高知のダバダ火振の名前が妙に目立つ。

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ドリンクが手元に届き、カチンと軽くグラスを合わせた後、最初に運ばれてきたのは、胡椒鯛のお造り。そして、真っ先に目が行ったのは唐辛子。どうやら、これが愛媛スタイル。しっかりとした弾力なのに、どこかふわっと軽めな食感と上品な旨さが、唐辛子のピリっとした刺激で一層際立つ。

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二皿目は椀もの。このお店は基本的に魚料理のみとなるので、どれを食べても魚づくし。しっかりとダシを引いたことが、一口目に繊細な味が広がり、二口目以降に薄いけど濃厚な味だと気がついた。

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さてさて、次の品は…と思ったところで、登場したのが塩釜。

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シンプルに食材の旨みを引き出す、合理的ながらも非常に贅沢な調理方法。

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木槌で塩の固まりを割ってふわっと広がるのは、たっぷりの湯気と磯と塩の香り。丁寧に骨を取り除いて、小分け用の準備は万端。

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しかも、3人で行ったからということもあってか、2種類の釜が登場。

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取り分けられた2種類は、左がハタで右が胡椒鯛。特に印象的だったのが胡椒鯛。刺身で食べたときの上品であっさりした味が一変。あるで肉料理を食べているかのように、ずっしりと強く逞しい味へと変化した。
ハタも、プリプリした皮の脂と旨みがたまらず、同じ塩釜なのに対極的な2種類の味を、食べ比べできたのは、とても面白い。もちろん、このお皿に盛られた分だけではなく、ワンテーブル分は一匹丸々なので、思いのままに好きな部位を食べることができる。

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から揚げももちろん魚。本当に、鶏肉を食べているような味だったのが印象的。でも、何の魚だったかは失念…

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塩釜を食べつくし、お腹の塩梅がかなりよろしくなったところで、揚げナスや、イカの足、あるいは、ホタテの貝柱などがたっぷり入った一品。トロリとしたあんにダシの旨みがしっかり凝縮されており、特に、揚げナスの衣が旨いこと旨いこと。

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ダシの旨みを感じさせるのは、この雑炊も同じ。もちろん、底には魚が。

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デザートは、ほうじ茶と牛乳のゼリー、メロンとそのシャーベット、そして梨。
 
和の場合、コースのイメージを損なわずに、デザートを出すということは、洋のコースと比べて非常に難しいことだと思うが、この器の場合は、食後のお茶で一服するかのように、引き締める役割を担いつつ、果物の甘みでしっかりとクロージングしてくれる。
このお店は、実家が漁師を営んでいる家のご兄弟さんが、650キロ離れた東京の地で腕を振るっているお店。
愛する地で獲れた魚に対する思いを、愛を込めてお客さんに提供している。旨さの原点はきっと、そんなところなんだろうと思う。

著者プロフィール

takapu

ごはんフォトグラファー/Local-Fooddesign代表
食にまつわる各種コンテンツ制作(フォトグラファー、エディター、フードライター、インタビュー)、商品開発・リニューアル提案、PRツール・ロゴ制作などを手掛けます。
創業75年以上の老舗食堂を紹介するウェブサイト百年食堂の制作・運営もしています。
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Posted by takapu