岩手県釜石市・新華園本店 釜石ラーメンという名の生き字引。

 

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新華園本店-01
食文化に関する講演のお話をいただいて、
初めて降り立った釜石の駅。
油絵のように彩やかな青空、ひんやり心地いい空気、
そして透明に澄んだ大渡川が迎えてくれました。
駅から中心地に向かって県道4号線を歩くと、
あの日の爪痕が至る所に残っています。
ここの両脇にはいくつもの商店やオフィスビルが立ち並び、
市民の生活拠点として、商店街が構成されていたそうです。
今、新しく建った飲食店はあるものの、
大半を占める空地を見る度に、なんとも言えない気持ちになります。
あっという間に飲み込んだ水の威力を、感じざるをえません。
そんな4号線沿いにあるのが、このお店。
「新華園」の大きな看板が足を止め、
視線を青い空に向かわせてくれます。
新華園本店-02
店頭の暖簾は、瓦礫の中から見つかったもの。
30年以上お客さんを出迎えていたシンボルもまた、
津波によって姿を消していました。
ですが、まるで運命のように姿を現し、
ほとんどが無事だったという器にも導かれて、
市民の方が再開を待ち望んでいた味を、再び提供し始めました。
新華園本店-04
テーブル席に座ってメニューを見ると、
目を惹いたのは釜石ラーメンの文字。
これを食べないわけにいかず、これが食べたかったのです。


新華園本店-05
運ばれてきたラーメン。
その特長は何といっても極細麺。
澄んだスープの中に泳ぐ姿は芸術的です。
ただ、昔から釜石の中華麺がここまで細かったという訳ではなく、
これはお店のご主人のお父さんが、昭和30年代に考案したものでした。
製鉄所で働く方は毎日が体力勝負。
昼休みを満足に取れないほどに忙しく、
飲食店でもできるだけ早く、料理を提供する必要がありました。
そこで生まれたのが、茹で上げ時間が短い極細麺を使ったラーメン。
これが釜石ラーメンです。
ただ、このお店ではメニューには「ラーメン(釜石ラーメン)」と記されています。
つまり、地域にとっての当たり前なラーメンがこの姿。
そういうことなんです。
それが食べ継がれて約60年、家族構成で考えれば3世代目。
由緒ある素晴らしい食文化。
今ではこれを提供するお店も約30軒あるといい、
地域の生活環境によって誕生したラーメンは、
地域の生活必需品になっています。
新華園本店-06
箸で引き上げれば、細丸麺ではなく細平の麺。
驚いたのがハリの強さ、そして啜った瞬間に唇を駆け抜けた独特の感覚。
しかも、最後の一本まで伸びることなく、しなやかに唇を駆け抜けます。
そして、鶏ガラや豚骨のベースが醤油味に染まった、琥珀色のスープ。
口にすれば薄化粧で実直な味が、やさしく身体を包み込んでくれます。
麺とのバランスもよく、毎日食べても飽きがこない。
食べて疲れる味じゃなく疲れを癒す味。
食卓に並ぶお味噌汁のように、いつも寄り添って欲しい存在です。
ところで、ランチタイムには半チャーハン付きのセットもあり、
自分もこれにしました。
チャーハンと言えば欠かせないのはスープですが、
このラーメンのスープが最高のマッチング。
完ツユ完食当たり前です。
新華園本店-03
店頭には数枚の写真、そしてラーメンの写真が掲げられています。
あの日の記憶と受け継がれる味の姿は、未来に語り継ぐ生き字引のようです。
新しく生まれ変わる釜石の地で、
色々な料理や食文化も生まれると思いますが、
それはクラシックがあってこそ。
琥珀色のスープは、未来の釜石を照らす朝日の輝きです。
「極細麺を束ねて太い絆を作る。」
一人でも多くの方がこの麺に触れて、
太く、どこまでも太い絆が生まれてくれればと、
願わずにいられません。

ローカルフードデザイナー/伝承料理研究家/復興庁「専門家派遣集中支援事業」登録専門家
地域食材・食文化をテーマにした商品開発や地域活性事業の企画・運営、取材、執筆、撮影、講演活動、地域メディア・ソーシャルメディア運営アドバイザー。人×食×地域の繋がりを強くする取組みをしています。詳しいプロフィールは下のリンクから。
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