宮城県気仙沼市・福よし 象徴として。

 

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福よし-01
初めて訪れる地で移動の際に頼れるのは、
1にタクシー2にタクシー。
今まで歩いたところがない場所を、自分の足で踏みしめて、
ウェブやガイドマップじゃわからないことを知る。
それも観光の醍醐味ですが、
タクシーに乗って行き先を告げた後に、窓ガラス越しに見る街の姿。
そこで一瞬の記憶に焼きついたお店のことを、後で調べたりする。
これも観光の醍醐味です。
約2キロぐらい車に揺られて到着したお店が、
今日のお目当て、福よし。
震災の被害を受けた後、元々駐車場だったスペースに、
1階は駐車場、2階を店舗という構成で再建されました。
福よし-02
靴を下駄箱に入れて階段を登ると、憧れの暖簾が目の前に。
福よし-03
そして、柔らかに灯るホヤのランプが出迎えてくれました。
福よし-04
無垢の一枚板を使ったカウンター席に座り、
手書きのおしながきを端から端まで見ていたら、
単品で注文しようと思っていた気持ちが変わりました。
おまかせコースを紹介する一字一句を追えば、
移り気は正当な行為になります。


福よし-05
最初の一品は、ナスの揚げ浸し。
焼き魚で有名なお店でこの小鉢が出てきた一瞬は、
不思議な感覚になりましたが、
一口箸を運ぶと驚きに包まれました。
普通の料理を普通の感覚のまま、
ものすごく美味しくすることが、一番難しい。
そう思っている自分にとって、
このナスはその理想を体現したもの。
出汁を含んでパンパンになったナスから、
じゅわりと溢れる旨さ。
油のコクとタマネギのシャキシャキした食感が、
シンプルの奥深さを膨らませます。
福よし-06
次に、いかふみそ焼き。
イカの身を内臓と和えたものを、
焦げないように混ぜあわせながら少しずつ炙っていきます。
半生ぐらいのところを食べてみようと思って、
箸を伸ばさんとすると、
「まだ!まだ早いですよ!」
と、女将さんの優しい檄が飛んできます。
福よし-07
半透明だった身の色が乳白色に染まり、
弾力の塊から水分が程よく抜けたことが、
ひと目でわかるようなタイミングになったら、丁度食べごろ。
女将さんからも「もう大丈夫ですよ」とお墨付きをいだきました。
フワッとした口当たり、
ワタのコクとイカの旨味が凝縮されたその味は、
何が一番不思議かといえば、冷めても固くなったりせず、
最初から最後まで同じ歯ざわりだったこと。
箸を伸ばす手が止まりません。
福よし-08
そして、刺身の盛り合わせ。
主役はやっぱりたっぷりの鰹。
しなやかな筋肉に含まれる脂のノリの良さ、
食べても食べても食べ飽きません。
看板役者を囲む、淡く輝く白身や北寄貝やホタテ貝柱、そしてエビ。
甘さと食感の違いを楽しみながら、
普段見かけない2つの魚へ箸を伸ばします。
一つがまんぼうのコワダ(胃袋)。
こちらでは塩コショウで炒めたり、酢味噌和えで食べることが多いようですが、
ワサビ醤油で食べてもクセを感じることなく、
コリコリとした独特の食感を介して、独特の風味が舌をゆっくりと泳ぎます。
もうひとつが、こちらでは「もうかの星」と呼ばれるモウカザメの心臓。
何かと比較するよりも、これが比較の軸になるような唯一無二の存在。
しいて言えば上質なレバ刺しなのですが、これは輝ける気仙沼の一等星。
輸送技術が発達した今の時代でも、現地じゃないと会えない味。
気仙沼ならではの鮮魚文化の一端にお刺身の形で触れる。
これこそ足を運ぶ価値であり、当地で地魚を食べる醍醐味です。
福よし-09
そして、地のウニとワカメは、
別皿でたっぷりといただきました。
甘さが凝縮された黄色い宝石と、艷やかなワカメの弾力。
「こんなにたっぷり食べていいのでしょうか?」と、
本気で思えてなりません。
福よし-10
次に運ばれてきたのは、ホイルに包まれた大きなお皿。
アルミホイルをはがすと立派なホタテとのご対面。
福よし-11
カパッと殻を外せば、立派な姿のホタテの身。
正直、ここまで綺麗なものは見たことがありませんでした。
5年物ぐらいかと尋ねたところ、「3年物ぐらい」かなぁと。
もし、翌日の朝イチで自宅に帰るのならば、
この貝殻をお土産にしたいぐらいです。
福よし-12
湯気が立ち上り、甘い香りで口元とホタテとがつながったところで、
おもむろに頬張れば、しっかり引き締まった貝柱の筋肉から、
甘くジューシーなエキスが溢れだして止まりません。
福よし-13
そんな肴に合わせるのは、やっぱり日本酒。
店名を冠した福よしの引き締まった辛口が、
口をスッキリさせてくれます。
福よし-14
そして、このお店の代名詞・キチジの焼き魚。
カウンター席の斜め後ろにちらりと伺える、コの字型をした囲炉裏。
手作りの竹串が刺さった魚が、炭に面する向きを変えられつつ、
最高に仕上がるまでの幸福なカウントダウンが進みます。
皮に箸を当てた瞬間に、パリっと軽快な感覚が伝わり、
身をほぐせば立ち上る香りと共に喜びが溢れだし、
ふっくらとした口当たりから上品な脂が滴る。
時には箸を置いて手の力を借りながら、
ありとあらゆる部分を丁寧に解し、
部位ごとの美味しさをしっかりと味わえば、
最高の職人技を堪能できます。
世間的に「福よしの焼き魚は日本一の焼き魚」と、
称されることが多いのですが、その理由がよくわかりました。
福よし-15
そして、その確信を更に強くしてくれるのが、この骨スープ。
食べ終えたキチジの骨を、ちょっと大きめの丼に入れて、
しっかりとかき混ぜたところで少し置けば、
旨味が染みだした極上の一杯のできあがり。
これに合わせた梅おにぎりの海苔の香りも、
お腹一杯の胃袋に別腹空間を生み出すきっかけとなって、
最高の締めとなりました。
そういえば、骨スープを作っている時に店員さんから言われたのが、
「うちの暖簾の真ん中にあるのは、鯛の鯛の部分なんですよ。」
という話。なるほど、つまりこの料理は福よしを象徴するものなんだ。
と、最後の一滴まで飲み干しました。
福よし-16
お会計を終えて、さっき潜った暖簾から階段を降りようとしたら、
目に入ってきたのはこの大きな書。
気仙沼港のすぐ近くにあったお店は、
同じく港が見渡せる場所に再建されました。
お座敷席側の窓から見えた夕日に照らされる漁船の姿。
お店からの帰り道はタクシーではなく、
その船に近づかんと港沿いを歩きます。
漁船に大漁旗がはためけば、
それだけ多くの鯛の鯛が気仙沼に水揚げされるということ。
お店の象徴であり街の象徴なんだと、
海の香りに包まれながら思ったものです。

ローカルフードデザイナー/伝承料理研究家/復興庁「専門家派遣集中支援事業」登録専門家
地域食材・食文化をテーマにした商品開発や地域活性事業の企画・運営、取材、執筆、撮影、講演活動、地域メディア・ソーシャルメディア運営アドバイザー。人×食×地域の繋がりを強くする取組みをしています。詳しいプロフィールは下のリンクから。
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