宮城県気仙沼市・福よし 象徴として。

   2017/09/16

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初めて訪れる地で移動の際に頼れるのは、1にタクシー2にタクシー。

今まで歩いたところがない場所を、自分の足で踏みしめて、ウェブやガイドマップじゃわからないことを知る。それも観光の醍醐味ですが、タクシーに乗って行き先を告げた後に、窓ガラス越しに見る街の姿。そこで一瞬の記憶に焼きついたお店のことを、後で調べたりする。これも観光の醍醐味です。

約2キロぐらい車に揺られて到着したお店が、今日のお目当て、福よし。震災の被害を受けた後、元々駐車場だったスペースに、1階は駐車場、2階を店舗という構成で再建されました。
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靴を下駄箱に入れて階段を登れば、目の前には憧れの暖簾。

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そして、柔らかに灯るホヤのランプが出迎えてくれました。

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無垢の一枚板を使ったカウンター席に座り、手書きのおしながきを端から端まで見ていたら、単品で注文しようと思っていた気持ちが変わりました。おまかせコースを紹介する一字一句を追えば、移り気は正当な行為になります。

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最初の一品は、ナスの揚げ浸し。焼き魚で有名なお店でこの小鉢が出てきた一瞬は、不思議な感覚になりましたが、一口箸を運ぶと驚きに包まれました。

普通の料理を普通の感覚のまま、ものすごく美味しくすることが、一番難しい。そう思っている自分にとって、このナスはその理想を体現したもの。

出汁を含んでパンパンになったナスから、じゅわりと溢れる旨さ。油のコクとタマネギのシャキシャキした食感が、シンプルの奥深さを膨らませます。

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お次は、いかふみそ焼き。イカの身を内臓と和えたものを、焦げないように混ぜあわせながら少しずつ炙っていきます。半生ぐらいのところを食べてみようと思って箸を伸ばさんとすると、「まだ!まだ早いですよ!」と、女将さんの優しい檄が飛んできます。

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半透明だった身の色が乳白色に染まり、弾力の塊から水分が程よく抜けたことが、ひと目でわかるようなタイミングになったら、丁度食べごろ。女将さんからも「もう大丈夫ですよ」とお墨付きをいだきました。

フワッとした口当たり、ワタのコクとイカの旨味が凝縮されたその味は、何が一番不思議かといえば、冷めても固くなったりせず、最初から最後まで同じ歯ざわりだったこと。箸を伸ばす手が止まりません。

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そして、刺身の盛り合わせ。

主役はやっぱりたっぷりの鰹。しなやかな筋肉に含まれる脂のノリの良さ、食べても食べても食べ飽きません。看板役者を囲む、淡く輝く白身や北寄貝やホタテ貝柱、そしてエビ。甘さと食感の違いを楽しみながら、普段見かけない2つの魚へ箸を伸ばします。

一つがまんぼうのコワダ(胃袋)。こちらでは塩コショウで炒めたり、酢味噌和えで食べることが多いようですが、ワサビ醤油で食べてもクセを感じることなく、コリコリとした独特の食感を介して、独特の風味が舌をゆっくりと泳ぎます。

もうひとつが、こちらでは「もうかの星」と呼ばれるモウカザメの心臓。何かと比較するよりも、これが比較の軸になるような唯一無二の存在。

しいて言えば上質なレバ刺しなのですが、これは輝ける気仙沼の一等星。輸送技術が発達した今の時代でも、現地じゃないと会えない味。気仙沼ならではの鮮魚文化の一端にお刺身の形で触れる。これこそ足を運ぶ価値であり、当地で地魚を食べる醍醐味です。

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地のウニとワカメは別皿でたっぷりと。甘さが凝縮された黄色い宝石と、艷やかなワカメの弾力。『こんなにたっぷり食べていいのでしょうか?』と、本気で思えてなりません。

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ここで運ばれてきたのはホイルに包まれた大きなお皿。その中には立派なホタテが鎮座していました。

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パカっと殻を外せば立派な姿のホタテの身。正直、ここまで綺麗なものは見たことがありませんでした。

5年物ぐらいかと尋ねたところ、「3年物ぐらい」かなぁと。もし、翌日の朝イチで自宅に帰るのならば、この貝殻をお土産にしたいぐらいです。

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湯気が立ち上り、甘い香りで口元とホタテとがつながったところで、おもむろに頬張れば、しっかり引き締まった貝柱の筋肉から、甘くジューシーなエキスが溢れだして止まりません。

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そんな肴に合わせたいのは、やっぱり日本酒。店名を冠した引き締まった辛口が、口をスッキリさせてくれます。

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そして、このお店の代名詞・キチジの焼き魚。

カウンター席の斜め後ろにちらりと伺える、コの字型をした囲炉裏。手作りの竹串が刺さった魚が、炭に面する向きを変えられつつ、最高に仕上がるまでの幸福なカウントダウンが進みます。

皮に箸を当てた瞬間に、パリっと軽快な感覚が伝わり、身をほぐせば立ち上る香りと共に喜びが溢れだし、ふっくらとした口当たりから上品な脂が滴る。

時には箸を置いて手の力を借りながら、ありとあらゆる部分を丁寧に解し、部位ごとの美味しさをしっかりと味わえば、最高の職人技を堪能できます。

世間的に「福よしの焼き魚は日本一の焼き魚」と、称されることが多いのですが、その理由がよくわかりました。

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そして、その確信を更に強くしてくれるのが、この骨スープ。

食べ終えたキチジの骨を、ちょっと大きめの丼に入れて、しっかりとかき混ぜたところで少し置けば、旨味が染みだした極上の一杯のできあがり。

これに合わせた梅おにぎりの海苔の香りも、お腹一杯の胃袋に別腹空間を生み出すきっかけとなって、最高の締めとなりました。

そういえば、骨スープを作っている時に店員さんから言われたのが、「うちの暖簾の真ん中にあるのは、鯛の鯛の部分なんですよ。」という話。なるほど、つまりこの料理は福よしを象徴するものなんだと。

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お会計を終えて、さっき潜った暖簾から階段を降りようとした時に、この大きな書が目に入りました。

震災前、気仙沼港のすぐ近くにあったお店は、同じく港が見渡せる場所に再建されました。

数時間前、お座敷席側の窓から見えた夕日に照らされる漁船の姿。帰り道はタクシーを使わず、その船に近づかんと港沿いを歩きます。

漁船に大漁旗がはためけば、それだけ多くの鯛の鯛が気仙沼に水揚げされるということ。お店の象徴であり街の象徴なんだと、海の香りに包まれながら思ったものです。

ローカルフードデザイナー/伝承料理研究家/復興庁「専門家派遣集中支援事業」登録専門家
地域食材・食文化をテーマにした商品開発や地域活性事業の企画・運営、取材、執筆、撮影、講演活動、地域メディア・ソーシャルメディア運営アドバイザー。人×食×地域の繋がりを強くする取組みをしています。詳しいプロフィールは下のリンクから。
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