岩手県花巻市・「マルカン百貨店」のナポリカツとソフトクリームに、「さよなら、ありがとう」なんてまだ言いたくない!

   2016/08/28

Pocket
LINEで送る

マルカンデパート-01

4月のある日、東京から新幹線で北上して向かったのは岩手県花巻市。

東北新幹線から在来線に乗り換える途中、駅舎の外から北上川に向かうと、色鮮やかに咲き誇る北上展勝地の桜。

「みちのく三大桜の名所」と呼ばれる景色をしばし眺めていると、「時間が止まってほしい」と思うもの。この日は色々な意味でそうあってほしい日でした。

平日にもかかわらず旅人の姿が多めの車両が花巻駅に到着すると、自分と同じく大きめの荷物を持った人が次々と下車し、改札口に向かって歩き出します。

マルカンデパート-02

バスが来るの待ちきれず、タクシーで向かった先は花巻のランドマーク・マルカン百貨店。第一次オイルショックが発生した1973年、花巻の中心街・上町商店街に産声をあげた百貨店。

創業当時から、花巻市はもちろん盛岡や北上からも大勢の買い物客が訪れ、岩手県全体を商圏としていましたが、建物の老朽化に伴って、この6月7日に43年の歴史に幕を下ろすという報道がなされて以降、商圏は全国各地へと広がっていきました。

マルカンデパート-03

小さなエレベーターに乗り込んで、6階に向かうまでのわずかな時間すら長く感じるものでした。

ドアが開いた先に広がる大食堂。平日で昼休みの時間帯から少しタイミングを外したにもかかわらず、食券を買い求めるお客さんの列は絶えることがありません。

閉店の報道がなされて以来、特に土日の混雑はすさまじく料理が提供されるまでに数時間待ちになることも。

ショーケースの一角、別の料理があったであろう場所には「大変混みあっている為、メニューを減らさせていただいております」の案内が掲げられていました。

マルカンデパート-04

花巻市内が一望できる約600の客席はほぼ満席。かしこまることなく、いつもどおり過ごしている地元のお客さんと、自分のように「最後に一度」の旅行客が入り混じった食堂は、賑わいと寂しさに包まれていました。

マルカンデパート-05

案内されたのは「43年間のご愛顧ありがとうございました。」のポスターが貼られた壁際のテーブル。

食券を渡して料理を待つ間、常に視界に入る前方の席。どうやらここは食堂で働く方が食事をする際の指定席。

トレイに乗ったラーメンをテーブルに置いた瞬間、ピンと貼っていた背中が少しだけ緩んだ姿が、ここ数ヶ月の忙しさを物語っているようでした。

マルカンデパート-06

よく、この食堂は昭和レトロと形容されますが、逆に言えば創業当時の什器や小道具に、お客さんを満たす普遍的で必要十分な機能が宿っているということ。

フタを持ち上げれば傘が開く割り箸入れなんて、今にしてみれば逆に思い浮かばない使い手にやさしいデザインです。

マルカンデパート-07

さて、注文したのはこの3品。7年前に初めて食べた時に衝撃を受けたメニューをもう一度。

マルカンデパート-08

まずはドミニカンシェイク。氷イチゴのシロップとカルピスを炭酸水で割った鮮やかな色合いは、不思議と懐かしさを感じさせるものです。

しっかりとかき混ぜないと、底のほうに甘さが沈んでいるのですが、逆に考えるとそのまま飲んでいるうちに氷が溶けても、同じ味のトーンで楽しめるということ。

「今日は混雑しておりますので、料理が運ばれてくるのが遅くなります」食券を受け取る際に伝えられたこの一言を思い返しながら過ごすお供にピッタリです。

マルカンデパート-09
白いカチューシャのウェイトレスさん、オレンジ色のエプロンをつけたお姉さん。三世代ぐらいにまたがる幅広い年代の方が、広いホールの隅々まで料理を行き渡らせます。

「あれ、自分のかなぁ…」と思いつつ空振りすること数回、20分程度で運ばれてきたメインディッシュのナポリカツ。会いたかったです、すごく会いたかったです。

このトマトトマトした味は、ケチャップ味というよりはマルカンのナポリタン味。パスタにしっかり絡んだソースにはタマネギやマッシュルーム、そして豚肉がたっぷり。

その上に鎮座する大きなチキンカツ。サクサクとした衣の心地よき歯ざわりが奏でるおいしさのメロディー。ほのかに甘い鶏肉と、ナポリタンの酸味やソースの塩加減との相性はもちろん抜群です。

マルカンデパート-10

非常に大きな皿に盛られていることもあるのですが、一口一口ゆっくりと。丁寧に作られた料理とボリュームが両立する料理が、こんなにも低価格。すごいものです。

ちらっと見えた厨房で動き回るスタッフの方の動きはすべて大きくて、一つの料理にも妥協を許す気配は微塵もありません。

そんな熱気が込められたナポリカツの最後の一口。ソースとケチャップをありったけ絡めた味は今も心にしっかりと絡んでいます。

マルカンデパート-11

そして、食後に運ばれてきたのは名物のソフトクリーム。白き螺旋の塔は厨房にいる職人さんの手によって頂点まで積み上がり、崩れることなく運ばれてきました。

マルカンデパート-12

もちろん、お箸でいただきます。昔ながらのシンプルに甘さとコクが溶けこんだソフトクリーム、そのおいしさもさることながら、食べる所作を味わうのが流儀なんだと思います。

誰が始めたかわからないけど、継がれている花巻流ソフトクリームの所作は、伝統芸能のように今日まで受け継がれてきた地域の財産。

最後の一口を食べ終えた瞬間に感情として高ぶってきたのは、再会できた喜びと喪失感が入り混じった感覚。

「地元の人間じゃないけど、失われてほしくない。」かつて、地元にもあった大食堂という時代を彩った食文化。その姿を後世に残す数少ない場所だからこそ、強く自分ごとになって思えます。

閉店までのカウントダウンは残りわずかとなりました。

でも、地元で空きビルのリノベーション事業を手掛ける花巻家守舎によって、マルカン百貨店は姿を少しだけ変えて残るかもしれない。そんな報道がなされました。

事業承継がなされるか否かが決定するリミットは8月末。偶然座ったテーブルの番号・16番が、ジャイアンツが川上哲治の永久欠番であるように、この空間が町の生きる永久欠番として、いつまでも現役であってほしいものです。

マルカンデパート-13

それまでは、しばしのお別れ。この食堂が歩んできた43年間に尊敬の念を込めて、そして次の世代にもこの場所が受け継がれることを願って、乾杯。

ローカルフードデザイナー/伝承料理研究家/復興庁「専門家派遣集中支援事業」登録専門家
地域食材・食文化をテーマにした商品開発や地域活性事業の企画・運営、取材、執筆、撮影、講演活動、地域メディア・ソーシャルメディア運営アドバイザー。人×食×地域の繋がりを強くする取組みをしています。詳しいプロフィールは下のリンクから。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • follow us in feedly